香りの輪郭
公式のディスクリプターは「Citrus, Tropical/Fruit」。実際に嗅ぐと、その二語の内側にもう少し細かい階層があります。
総オイル 2.7 ml/100g は、香り用ホップとして十分に高い水準です。α酸12.4%と合わせて見ると、「苦味も香りも出せてしまう」品種であることが分かります。この二面性がCitraの扱いやすさであり、同時に設計を難しくしている点でもあります。
投入タイミング別の使い方
Citraは単独でビールを成立させられる数少ない品種ですが、全工程に均等に振るより、役割を絞った方が輪郭が出ます。以下は設計の出発点としての目安です。
| タイミング | 向き | 設計の考えかた |
|---|---|---|
| ボイル序盤 (60分) |
△ 条件つき | α酸12.4%なのでIBUは十分に稼げます。ただしコフムロン比率が20〜24%と高めで、この帯域のホップは苦味の質が硬く出やすいと言われます。ベースのビタリングはCentennialやColumbusなど別品種に任せ、Citraは香りに回す設計が扱いやすいです。 |
| ボイル終盤 (10分〜0分) |
◎ | 柑橘の輪郭がはっきり立つ領域。香りの土台をここで作り、上物をホップスタンドとドライホップで重ねます。 |
| ホップスタンド (80℃前後) |
◎ 主戦場 | 沸騰を落としてから投入することで、熱に弱い南国果実の側面が残ります。Citraの「ライチ感」が最も出やすいのはこの工程です。 |
| ドライホップ | ◎ 主戦場 | 2回に分け、発酵中盤と終盤に入れる設計が定番。総量が増えるほど青さ・玉ねぎ様のニュアンスが立ち上がるため、香りが伸びなくなったら「増やす」ではなく「分ける・タイミングを変える」方向で調整します。 |
Citraは投入量に対して線形に香りが伸びません。ある量を超えると柑橘のきれいな部分より青い側面が前に出ます。「思ったより香らない」と感じたときに増量で解決しようとすると、たいてい逆方向に進みます。
相性のよいビアスタイル
| スタイル | Citraの役割 |
|---|---|
| ヘイジーIPA | 最も相性が良い組み合わせ。オーツ麦由来のまろやかな口当たりと、Citraの南国果実感が同じ方向を向きます。ドライホップ主体で組み立てます。 |
| ウエストコーストIPA | キレのある苦味の上に柑橘を乗せる構成。ビタリングは別品種に任せ、Citraは終盤以降に集中させると輪郭が締まります。 |
| ペールエール | 少量でも存在感が出るため、モルトを覆い隠さない範囲で香りを立てられます。 |
| セッションIPA | アルコールが低く香りが痩せやすいスタイルで、Citraの強さが有利に働きます。 |
| ホップウォーター/ノンアル | 糖やアルコールの支えがない分、品種の素性がそのまま出ます。Citraの果実感は単独でも成立します。 |
組み合わせるなら
Citraは単独でも成立しますが、一段深い香りを作るなら足りない方向を補う品種を重ねます。以下はいずれも当社で取り扱いのある品種です。
El Dorado®Crosby Hops™
キャンディのような甘い果実感を足す方向。Citraの柑橘に厚みが乗り、ヘイジーIPAでよく組まれる組み合わせです。
Amarillo®Crosby Hops™
オレンジ・アプリコット寄りの柑橘を重ね、Citraのグレープフルーツを柔らかい方向へ広げます。
NZ Riwaka™Hop Revolution NZ™
ニュージーランド産の強い柑橘・パッションフルーツ。同じ果実方向でも産地が違うぶん、輪郭がずれて層になります。
Strata®Indie Hops®
ダンク(大麻様)とベリーの方向。Citraのきれいな果実感に対して土っぽさと厚みを与える、性格の異なる組み合わせ。
この品種の背景
Citraは、John I. Haas と Yakima Chief Ranches による共同事業 Hop Breeding Company が育成し、2007年に発表した品種です。育種の交配自体は1990年にワシントン州ヤキマバレーで行われ、1992年に選抜されました。
血統は単一の系統ではなく、Hallertauer Mittelfrüh を中心に US Tettnanger、Brewer's Gold、East Kent Golding が混ざった構成とされています。ドイツ・アロマ種の系譜を引きながら、まったく別の南国果実の方向へ出たことがこの品種の面白さで、その後のアメリカンホップ育種の方向性を決定づけました。現在のIPAが持つ「果汁のような香り」という共通言語は、事実上ここから始まっています。
鮮度と保管について
ホップの香気成分は温度に対して非常に敏感で、輸送中や保管中の温度履歴がそのまま仕上がりに出ます。当社は冷凍コンテナでの輸入 → −18℃冷凍倉庫での保管 → 冷凍便での配送まで、温度を一度も切らさない体制で取り扱っています。
お手元に届いた後も、開封までは冷凍保管をお願いします。開封後は空気を抜いて密閉し、できるだけ早くお使いください。酸素と温度は、ホップにとって最も分かりやすい劣化要因です。
Citra® HBC 394 を購入する
5kg/袋。2025年クロップは入荷次第の発送、2024年クロップも選択いただけます。
よくある質問
ロットが変わると数値も変わりますか。
変わります。ホップは農産物で、収穫年・圃場・その年の天候によってα酸も総オイルも動きます。レシピを固定して運用される場合は、ロットごとの分析値に合わせて投入量を補正してください。
Citra単独でビールを組めますか。
組めます。実際にシングルホップIPAとして広く使われている品種です。ただし単独では香りの層が平坦になりやすいため、複数のタイミングに分けて投入する設計が前提になります。
T90ペレットとクライオ製品はどう使い分けますか。
ルプリンを濃縮したクライオ系(当社取扱いではCGX™)は、同じ香りをより少ない重量で得られるため、ドライホップ時のビール吸収ロスを抑えられます。植物質由来の青さを避けたい場合にも有効です。用途に応じて併用されるケースが多いです。